大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(ネ)1352号 判決

印鑑証明書は、文書の作成名義人の真正や本人の同一性を確認する重要な資料として、財産上の取引や登記申請等の公的手続において使用されるものであるから、誤った印鑑証明がなされたり、本人の全く関知しない間に他人に対して印鑑証明書が発行されたりした場合には、これを不正に使用されるおそれがあるといわなければならない。それ故印鑑証明書発行の事務を担当する控訴人の職員は、間接証明方式が採用されていることにより誤った印鑑証明がなされることのおそれはないとはいえ、印鑑証明書の発行、交付に当っては慎重な注意を払うべき職務上の義務があるというべきである。しかしながら右職員は、申請人が本人又はその代理人であることを確めるため、申請書及び委任状に顕出されている印影と印鑑登録票の印影との同一性を照合するについては、両印影を肉眼によりその大きさ、型状、字体等を詳細に検討してその同一性を判定すれば足り、疑いをさしはさむべき特段の事情のない限り拡大鏡等を使用しての精密な照合までする必要はないものというべきである。<中略>

ところで≪証拠≫によると、本件交付申請書及び委任状に押捺されている「加藤六郎」の印影と加藤六郎の印鑑登録票の印影とを肉眼で比較検討すると、両者は、大きさ型状においては同一と認められるが、その字体、特に「六」の字体にやゝ差異があり、また委任状等の印影は印鑑登録票のそれに比しやゝ線が細いと認められなくもないが、右の相違点はいずれも微細なものであって、一方が偽造印の印影であることを前提とした上で詳細に比較してようやく識別し得る程度に両者は酷似しており、そのような前提なくして比較した場合には、その識別は慎重な注意を払っても容易でないものと認められ、従って被控訴人の右担当職員が右両印影について肉眼照合により同一の印鑑のものと判断し、疑問を抱くことがなかったのは無理からぬところであったと認められるのであって、その同一性に疑問を抱いて拡大鏡等による精密な照合の措置をとらなかったことについて、これに過失があったとすることはできない。

(鰍沢 枇杷田 奥平)

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